すっかり更新が久しぶりになってしまいました。
ここ1〜2年、ブログは出展や新作、納品などの記事が中心で、以前のようにベランダガーデンや猫たちことなど、個人的なことを書く余裕がなかなか作れずにいました。
心身ともにいっぱいいっぱいの状態が続いていたこともあって、私の中では比較的オフシーズンである初夏〜夏の間は少し心身を休めつつ、新作の制作や今後のための準備、インプットや委託先への納品などをしながら過ごしています。
さて、少し前の話ですが、5月頃、なんとわが家のマンションにつばめが巣を作ってくれました。
最近は本当に少し前のこともすぐに忘れてしまうので、今回は備忘録も兼ねて。
着物や作品の話はありませんが、よろしければお付き合いくださいませ。
ある日、外出しようと一階の駐車場を通ると、つばめが2羽、スイスイと飛んでいたのです。
つばめボビン、というブランド名で活動しているだけに、私はつばめという鳥が大好きで、この時期家々や駅などに巣が作られているのを見つけては、いいなぁと羨ましく思っていました。
その時は、もしかして巣作りの内見かな? なんて、相方と冗談めかして話していたのですが、後日駐車場の床に泥が落ちているのを見つけてふと見上げると、本当に天井に巣を作り始めているではありませんか!
昔からつばめが巣を作る家は繁栄する、なんていう話もあったり、なによりも幸運のシンボルともいわれるつばめがよりによってわが家で子育てをしてくれるなんて…!
その日から、つばめを観察する日々が始まりました。
駐車場の天井には以前にもつばめが巣を作ったことがあったのか、木の板がL字型にいくつか設えてあって、まるでどうぞ巣を作ってくださいとでもいうような構え。
今回はそのなかの一番小さな板に、つばめの夫婦が小さな丸いお椀型の巣を作りました。
やがて一羽が卵を温めているような様子でちんまりといることが増えました。もう一羽はそれを守るようにして外側にとまっていることもあれば、どこかに出かけている時もありましたが、夜になると、2羽で巣にいることが多いようでした。
つばめの生態については知らないことも多く、なかなか子つばめが生まれる気配がないので、本当に卵がいるのかな? ちゃんと育っているのかな? と思うこともありましたが、そのうちに小さなヒナが細い首を振りながらピィピィ鳴いているのが見えました。
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柔らかそうな毛が頭にほわほわ生えたヒナは本当に小さくて、シュッとしたつばめの姿からは想像できないほど弱々しくて。
それでも、ヒナは日を追うごとに目に見えて大きくなってゆき、その成長スピードは驚くべきものでした。
私は鳥を飼った経験はないのですが、鳥好きの方によるとインコなどのペットの鳥に比べると、野生の鳥はやはり成長が早いのだそうです。確かに、のんびりしていたら天敵に襲われるリスクもあるし、こんな市街地といえども、野生の環境というのはやはり過酷なのですね。
そんなある日、夕刻に帰宅した相方が「ヒナが一羽、巣から落ちてる!」。
幸い生きてはいるようだけれど親鳥は不在とのことで、あわてて巣に向かいました。
地面にはぽそぽそと毛が生えたヒナが一羽、震えるようにうずくまっており、それなりに大きくはなっているようでしたがまだ飛ぶことはできず、これでは親鳥が帰って来たとしても、猫のようにくわえて巣に戻すなんてことはきっと難しいはず…
心なしか巣にいるほかのヒナたちも、心配そうに見下ろしているよう。
とにかくすぐに巣に戻してやらないとと、持ってきた踏み台代わりの椅子に乗るも、意外に高い天井には届かず。
どうしようと右往左往しているところに、相方がどこからか脚立をもってきてくれて、なんとか準備完了。
野生の鳥を触るのは初めてだし、ヒナといえども警戒心はあるだろうと、手袋をはめてそっと持ち上げると、やはり怯えているのか細く小さな足先にぐっと力が入ったのがわかりました。
大丈夫だよ〜と話しかけながら、一段一段脚立を上り、そろそろと巣の中へ。
タイミング悪く途中で親鳥が戻ってきたら、怖がって育児放棄してしまうかもとか、ヒナが暴れて落っことしたらどうしようとか、いろいろな想像が頭を巡りましたが、幸い騒ぎになることもなく、なんとか無事に巣の中へ戻すことができました。
あまりに小さな巣なので、その一件以降は毎日、ヒナが無事に落ちずにいてくれるかを気にかけるようになりました。
落下した子がどの子かの見分けは私にはつきませんでしたが、その後も一羽だけ弱っているような様子もなく、子つばめたちはすくすくと成長し、最終的には5羽が小さな巣に体を寄せ合う状態に。
この頃には姿形もすっかりつばめらしくなり、シュッとした細身の親鳥のイメージからするとまだ丸みがあってあどけないながらも、きゅっと結んだ嘴と、あごにも紅色が差し、時折翼をバタバタさせる様子もみられるようになりました。
小さい頃は夜には巣に帰ってきていた親鳥も、この頃には食事の時以外にはあまり姿を見せず、巣は日に日に大きくなる子つばめ達だけが常に押し合いへし合い。
朝や夕刻にベランダの鉢に水をやっていると、どこからか数羽のつばめたちがやってきて、しばしのお食事タイム。
縦横無尽に飛び交う親鳥や先輩つばめたちは、鋭く急降下したり、つばめ独特の線を描くような動きがたまらなく美しくて、私にはまさに夢見心地の嬉しいひとときでした。
もう十分に大きくなったようにも見えるし、羽根をばたつかせたり、毛繕いのような仕草をみせたりするようになると、そろそろ巣立ちなのかな…と気にかけるように。
そのうちに、先輩つばめが見守る中、飛行訓練のようなこともするようになり、ある日突然、忽然といなくなっていたらあまりに寂しいと、巣を見に行く頻度も増えました。
7月になると、1、2羽少ない日が出てきました。巣立って行ったのかと思うと翌日には戻ってきたりして、5羽が3羽になったり、4羽になったり。
そして七夕の朝、出勤した相方からメッセージが入り、
「空き家!」
ああ、ついにこの日が来たのかな…と見に行くと、巣には一羽もおらず、まさしく完全な空き家状態に。あたりを見回しても、子つばめも先輩つばめも気配すらありません。
この日は外出の予定があったのですが、なんだか力が抜けたようになり、寂しい思いを抱えながら夕方帰宅すると、なんと、子つばめたちが戻ってきていたのです!
徐々に遠くで飛行訓練をするようになるのか、きまって早朝にどこかに飛んで行って、夕方には巣に戻るということがそれから何日か続きました。
子つばめたちの巣立ち、そしてわが家との別れが近づいていることは明らかでした。
それから数日後、大きくなった5羽の子つばめにはあまりに小さすぎるヒビの入った巣は今度こそ完全に空になり、本当に巣立っていったのでした。
つばめの寿命からすると、それなりに長いであろう2ヶ月弱の、生まれてから急成長する期間を幸いにも見守らせてもらって感じていたことは、やっぱりつばめは本当に美しく、素敵な鳥であるということ。そして「幸せを運んでくる」という言い伝えは、紛れもなく本当だということ。
特に子つばめを巣に戻した後は、日に何度も巣を見に行っていたので(この時期に充電期間をもらえたことに心底感謝!)、今でもつばめたちのことを思い出すと涙腺が緩んでしまうのですが、親鳥の献身的な抱卵やそれを守る姿、生まれたばかりの小さくて頼りないヒナからの凛々しい子つばめへの成長を目の当たりにし、私自身も本当に毎日が感動の連続で、幸せに満ちた日々でした。
その名前を冠させてもらっているつばめボビンの品を選んでお使いくださる方々に、私もいろいろな意味で幸せをお届けできるブランドへと育んでいきたい。
やがて南の国へと旅立っていく彼らに、そんなことを誓った夏でした。